結論:外国に出ることが一回でもあるなら、ぜひ読んだことが良いぐらい必須の知識や考え方が豊富な実例とともに実証されている本。
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都市は人類最高の発明である posted with amazlet{.markup–anchor .markup–p-anchor} at 16.09.30
エドワード・グレイザー
エヌティティ出版
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Amazon.co.jpで詳細を見る 絶版なんだけど、このツイート{.markup–anchor .markup–p-anchor}を見るといいことがあるかもしれない。山形浩生さんのいる方角に足を向けて寝ないように。
本書の主張はかなりシンプルだ。
・人間は集まると知識の交換・協力・競争が行われて生産性が上がる
・集まると、劇場や遊園地のコストを割り勘できるから、都市のほうがエンターテイメントも教育も進化しやすい、距離が近いから
・もちろん、多様性を確保しながらマネジメントするのは大変だけど、農村全部を衛生的で便利で安全にするより、都市だけやるほうが楽なことが多い
・移動手段、産業、行政などあらゆるものが都市の成り立ち・衰退に作用するが、一回都市になって優秀な人たちが集まるようになると、状況が変わってもナントカうまく対処できる
・逆に、知識の交換・協力・競争が行われないような都市は都市の意味がないので寂れる。
とにかく都市最高。人間が人間たり得るのは集まったからという明快で説得力ある主張を、きわめて豊富な事例でいろいろな角度から検証し、よく聴かれる懸念に反証していく。
たとえば「ITにより都市の近接性がそんなに重要じゃなくなってる」については、
-スタンフォードもMITもハーバードも、学生が来なくなって先生とビデオで話すなどはやってない
-特許は、「距離的に近くて時代的に近い」 ほうがよく引用される
-電子コミュニケーションは近接コミュニケーションと対立するのでなくて補完する。普段会ってる同士のほうがチャットで話す
「都市が環境破壊や貧富の差を生んでる」については、集まって暮らしてる方がエコ(ニューヨークはアメリカで二番目に一人あたりエネルギー消費が少ない)だし、都市の貧乏人はその国の農村の貧乏人よりだいぶマシで、だから中国やインドやブラジルの農村からみんな都市のまわりに集まる、みたいな感じで。
それぞれの指標は明快で矛盾もしておらず、かつ面白いものが多いのに、「都合の良い事実だけ集めた」感はそんなにしない。(アメリカ学会の大権威らしいらしいので、そこまでいい加減なことはできないだろう)
あらゆる都市を褒めてるわけじゃなくて、住民運動やそれによる規制などで新しい高層ビルが建てられなくなり、人の流入が止まったり利便性が下がってる街(パリ、ムンバイなど)は懸念されている。
寂れた都市としてデトロイトやリバプールが挙げられている。特にデトロイトは、人が集まって工業都市になったのはいいけど、自動車産業がビッグスリーの寡占に終わって競争がなくなり、階層が固定化されてイノベーションもなくなり、組合活動などで一時的に待遇が底上げされても、イノベーションを産まなくなった街になって寂れたことが詳細にレポートされている。
競争がなくなる、格差が固定化される、変化がなくなるとイノベーションがなくなって都市が寂れる(というか、人々の暮らしが斜陽産業になる)
ニューヨークやボストンといった都市が、なぜ誕生し、時代によって役割を変えながら今も魅力的な都市でありつづけているかという分析はメチャメチャ面白い。
僕の馴染みのある以下の都市はこのように紹介されている。
シンガポール

この本の中でシンガポールはメチャメチャ褒められている。市場の高度なダイナミズムと、x快適でみんながうらやむ環境を両立させ、それによって世界の才能を引きつける都市を造ったことによって。ダイナミズム(自由が大事)と快適な環境(統制が大事)という両立の難しい要素を両立させたことによって。
たとえばシリコンバレーがシンガポールより移住しづらくコストが高い街なのはメチャメチャに高い不動産価格によるのだけど、それは高層ビル建設を許さない市民の反対による。シンガポールは国の人気が上がったら断固として高層ビルを建てて住める・働ける人を増やす。人口550万人(僕みたいな期間限定ビザの労働者含む。シンガポールのパスポーターは330万人だ)のシンガポールの高層ビルは、パリやロンドンの三倍以上多い。
僕がこの本の主張に則って思う懸念はシンガポールの街のサイズだ。これ以上シンガポールを大きくすることは市民が許さないだろう。与党はやる気で、そのための手も打っているけど、それはあとせいぜい市民をあと100万人を増やせるかどうかという話で、シンガポールが2倍3倍のサイズになることはあり得ない。
この本の主張に則ると、世界にはますますメガシティが誕生し、そこは大きいが故にあらゆるものの中心になる。上海や東京(どっちも、周辺含めると2000万人を超えてる)の30%ぐらいの規模しかないシンガポールは、うまくキャラクターを出して、「この分野ならベスト&ブライテストの人たちが集まる場所」でありつづけていけるだろうか。今シンガポールに集まっている人たちが優秀で、これからも優秀な人たちが集まりつづけそうなことは間違いないけど、、、
シリコンバレー

この本だとシリコンバレーは土地の特殊性(一戸建てが中心でみんな車で移動し、あんまり近接してない)とその理由について多くが割かれている。今後の先行きについては、IT産業しかないから、デトロイトの轍を踏む心配がなくはないが、デトロイトがビッグスリーの凋落と心中したのに対し、シリコンバレーは会社がいっぱいあるし、賢い人たちも流入し続けていて、変化に強そうだ。
何でその特殊性が生まれたかは山形さんのブログ{.markup–anchor
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深圳

この本には深センは出てこない。本で紹介されてるいくつかの例になぞらえて紹介すると、深センは香港の隣という地理と中国の政策的なサポートで労働者の流入が集まったので、西側への窓口、本書で言うゲートウェイとして発展し始めた。
このゲートウェイは、先進国への出口でもあるし発展途上国への入り口でもある。
本書ではゲートウェイの例としてインドのバンガロールが挙げられていて、
-外資の会社に務める
-ファンディングする
-自分の会社を売って別の起業をする
-世界をマーケットにする
ようなことが、インドの農村ではできないけどバンガロールに来ればできたとして、農村からバンガロールに来た様々な成功者の例を上げる。無論失敗者はさらに多いが、農村にいるとチャンスはそもそもない。
深センでもそっくり同じゲートウェイ都市としての性質が見られる。深センは外資進出の場所で、中国人が世界を相手取ったビジネスを始める場所でもある。DJIもMakeblockもSeeedも世界を相手にするためにわざわざ深センに来て起業している。
深センは今のところ、変化とブレイクスルーに満ちている。日本の学生の起業率に比べて中国は10倍ぐらい大きく(アジア経済研究所のデータ)、おそらく深センでは更に大きいだろう。
深圳の単純製造業は死につつあり、コケた会社の阿鼻叫喚も聞こえるが、全体がそこに引っ張られているわけではなく、集中した知財(本書では、距離的時間的に近い特許のほうが参考にされやすいという統計も出ている)と高度人材によるアイデアとイノベーションを売りにする街への進化はしているように思える。フォックスコンの街からDJIやテンセントの街へ。
中国そのものは今後もガタガタしまくりそうだけど、いま挙げたような会社は「他の会社よりマシ」な感じはするし、13億の人たちを世界は無視できない。しかも、今の深圳には世界からハードウェアで一発当てたい優秀な人たちが集まってくるゲートウェイとしての価値もあり、深圳の人たちは多少は自覚してそのキャラを立てようとしてるように思う。
東京
そして東京。本書では「ドメスティックすぎるけど、日本のベスト&ブライテストが集まってるのはすばらしい」的な評価を受けている。東京にも日本にも長らく住んでいた身からしてまったく同意だ。食べ物もおいしいし、特にDIYコンテンツカルチャーに起源を持つエンターテイメントは世界一だと思う。
本を読んでいてちょっと気になったのはデトロイトの例だ。デトロイトは工場が高度化するようになって単純労働者ばかりになり、その一本足打法だった産業が転けた時に何もなくなって人だけ残り、今ボロボロになっている。
日本は産業の新陳代謝がもともと早かった国だけど、ここ30年ぐらいは遅くなっている。今大きい会社は10年後も大きいままだろうし、トップ100の顔ぶれはあまり変わらなさそうだ。ここ10年ぐらいでどの都市もグローバル化の恩恵を受けているのだけど、東京はそこにそこまで乗り切れていない。そうすると階層が固定され、今主役の人たちがコケたとき(実際に、自動車以外の日本の産業はけっこういろいろヤバイ)に、かなりつまらない街にならないだろうか。日本人はそれでも東京以外に行かないと思うけど、一回斜陽になった街だと保護や権利ばかり主張する人がガンガン出てきて、結果としてより階層を固定化させ、ダイナミズムを生む人たちを追いやってしまう例は、本書にいくつも出てくる。(僕も、いま僕がやってることは、東京じゃない場所でやってる方が楽しい)
ともあれ、いろいろな街の見方が変わるすごく良い本だった
By TAKASU Masakazu/高須正和{.p-author .h-card} on September 3, 2021.
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