2016/11/18 08:00


世界で最もアジャイルな街の、アジャイルなMaker Faire Shenzhen 2016

2016/11/18 08:00

この連載でも過去に何度か取り上げてきた、世界のハードウェアの中心地・中国の深センでは、アジア最大のMaker Faireが開かれる。2016年10月21~23日に予定されていた「Maker Faire Shenzhen 2016」は、大型台風の直撃により、本番2日前に日程が23~24日に変更になるという、前代未聞のMaker Faireとなった。


10万人規模の参加者があり、野外で行われる巨大イベントの日程を直前で変更するとは夢物語のようである。公開中のイベントレポート{.markup–anchor .markup–p-anchor}にあわせて、Maker Faire Shenzhenの運営で何が起こっていたのかをレポートする。

10万人が集まる、アジア最大のMaker Faire

Maker Faire Shenzhen 2016は、2日間で10万人の来場者を集め、大成功の中終了した。統計数値を盛りがちな中国とはいえ、入り口のSNSを用いた記念チェックインが、ゼロから始まり10000は超えていた。たいていの人はチェックインせずに入っているようだったので、来場者10万人はうなずける数字だ。

中国のSNS、WeChatによる来場記念チェックイン。横に立っている男性2人はMaker
Faire
Bilbao(スペイン)の運営者。深センには世界中から10万人が集まった。

メインストリートは車が通れそうな広さだが、ピーク時は「正月の仲見世のようだ」(日本人出展者のコメント)と呼ばれる大混雑になった。

トーク会場も常に満員。マイクロソフト、Indiegogoなどの大企業だけでなく、日本からTryBots{.markup–anchor .markup–figure-anchor}の近藤那央さんなど世界のMakerもトークを行った。

アメリカの本家Maker Mediaにも「Shenzhenはアジア最大のメイカーフェアに向けて準備完了」{.markup–anchor .markup–p-anchor}と書かれていたが、その後の台風襲来で運営は綱渡りの連続だった。Maker Faireの運営にまつわる記事はあまり見たことがない。今回は深センの運営(のごく一部)についてレポートする。

巨大台風とMaker Faire

当初10月21~23日の日程で行われる予定だったMaker Faire Shenzhen 2016 を襲った巨大台風Haimaは、上陸予報が初日の21日となり、交通機関や企業の活動停止を意味する「シグナル8」が政府から通知された。香港すべてと、東京に匹敵する規模の巨大都市深センが公式に学級閉鎖されたようなものである。

海外のMaker Faireはおおむね屋外で行われている。深センでも、ジャッキアップしたフレームでつくる巨大テントが屋外に並んでいた。大規模とはいえテントなので、20日にはせっかく設営したテントをすべて地面に下ろし、台風が過ぎた22日に再設営することになった。

台風直前の会場。せっかく組み上げた巨大テントも、入り口のゲートも、1日がかりですべて解体する必要があった。

再設営した23日、Maker Faire Shenzhen
2016初日の様子。

再設営には、本来2日ぐらいかかるところを、ムリヤリ突貫工事で1日で終わらせた。それでも23日の1日しかMaker Faireは開催できない。運営委員会は、メインスポンサーSeeed社長エリック・パン{.markup–anchor .markup–p-anchor}のOKのもと、急きょMaker Faireを1日延長し、23、24日の両日に日程変更を決めた。

屋外のパブリックスペースでのMaker Faireを、いきなり1日延長するのである。会場、機材、ゲスト、告知、一瞬で膨大な — パンクするほどの — 仕事が発生する。そこに「もともとのMaker Faireのタスク(インドアの講演会はあまり変更がない)」「変更されるタスク(ゲストが飛行機延着でつかない場合は登壇スケジュールの変更が必要)」が加わり、かつ「会場をバラして再セットアップする」調整も入る。仕事量は3倍4倍に膨れあがる。

イベント前日の20日頃から、運営を担当している柴火創客空間(Chaihuo Maker Space)とSeeedの運営チームの、文字通り不眠不休の調整が始まった。

運営チームがFacebookに上げた写真。(提供:Monica
Shen)

具体的な例で言うと、たとえば僕のスケジュールはこんな感じである。

AM5:30 飛行機のフライト正式決定はフライト4時間前と決まっている。AM9:30に出発するゲストのフライトの決定はAM5:30で、それを確認して、自分がアレンジしている日本の出展者と連絡する。(結局はPM10:30となった)

AM9:00 業務開始 いろんな会社が動き出す。機材のレンタル先とか。PM10:30に東京を出てAM2:00頃に香港に着く(おそらく、それも遅れかねない)人たちが、どうやって深センのホテルまで到着するかを、今動いている交通機関を調べてプランを立て、来る人にどこで出迎えるか連絡する。また、予定している業務のうち、どこに影響が出て、たとえば機材のレンタルはどうなっていて、いつなら確認できるか、みたいなのを調べたり、一覧表にしてマネージャと確認したりする。

PM6:30 PM10:30のフライトが飛ぶか否かの最終判断。

PM10:30 フライトが飛ぶことを日本からの連絡で確認。

AM2:30 香港に着いたことを知る。国境で迎えることを確認したが、荷物とタクシー乗車人数の関係で、ホテルで待つことを連絡。

AM3:10 国境越えを確認。

AM4:00 ホテルで出迎え、チェックインサポート。以後、翌日組のAM5:30のフライト確認を迎える。22日は設営日で、AM10時には会場に行って設営の状況を確認する

みたいな感じで、これが21日から24日まで続く。僕は日本人組の企画しか見てなかったので、全体では仕事量が少ない方だったと思う。会場全体を見ていた本部のほうではどれぐらいの苦労だったか想像もできない。

日本からたくさんの出展者が招待された理由

僕は2015年からMaker Faire Shenzhenの運営に協力している。2012年からニコニコ学会βの実行委員をやっていたのと同じ、ボランティアでの活動である。

2015年、2016年と、Maker Faire Shenzhenは多くの日本人出展者を招いている。 Maker Faire TokyoがベイエリアのMaker Faireから、メントス×コークショー(2015年)、 Nerdy Derby(2016年)を招いているのと同じである。TokyoのMaker Faireがなにを期待して海外から出展者を招いているのか分からないが、Maker Faire Shenzhenでは**「よりMakeの世界を広げる、深センにないもの」**を期待している。

大人気だった、こさんくんのロボットバンド。

これまで招待された人たち、明和電機、デイリーポータルZ、ヒゲキタ3Dプラネタリウム、こさんくんのロボットバンド、AkiPartyなどを見ていると、スタートアップや研究者というよりもカルチャー寄りの人たちで、それでいて言語やコンテクストに寄らずに理解できる人たちが選ばれている。欧米から招待されているMake Fashionや地面に砂でポエムを描くロボットなどにもそれは共通している。

オランダのGijs van Bon{.markup–anchor .markup–figure-anchor}によるSandwriter Robot。砂で地面にポエムを描いていく。今回は台風でホテルに閉じ込められている間に、漢字で書くように調整していた。「日本でもやりたいので、招待をお待ちしている」とのこと。(撮影:伊藤亜聖)

深センはMakerムーブメントに対して政府が大きなサポートを行っていて、200を超えるスタートアップアクセラレーターがあると聞く。その方向性での世界の最先端は、深センではあたりまえのことで、招待したいのは別の方向なんだろう。

そういうカルチャー的なものは、人によって答えが違う。エリック・パンほかMaker Faire Shenzhenのメンバーは、Seeedとして世界中のMake Faireにブースを出している。Maker Faire Tokyoにも毎回出展していて、各ブースを回っている。2016年のMaker Faire Tokyoでも彼ら/彼女たちからMaker Faire Shenzhenの招待状、ポストカードみたいなものをもらった出展者は多いだろう。

その後で「呼びたい候補リスト」を作り、メンバーでは一番日本語が堪能な僕が、メールとかで聞いたり直接会ったりして条件を整理する。順番がつけられるものではないから、リストは単なる表で順番は付いてない。検討した結果招待が決まったら、飛行機の便とか、空港からホテルまでとか、細かい具体的なやりとりをする。

デイリーポータルZのBigFaceは大人気で、終了後に運営チームがこんな記念写真を撮っていた。(提供:Anby
Wen)

今回の招待Maker、MakeFasion(カナダ)、砂でポエム描くロボ(オランダ)、デイリーポータルZ、ヒゲキタ3D、Trybots(近藤那央さんのプレゼンのみ)、ロボットバンド、AkiParty(デイリーポータルZ以降すべて日本)は多くの人に囲まれていて、現地の報道でも多く扱われていたので、運営のもくろみは成功したといえるだろう。

Maker Faire Shenzhenのアフターパーティーになるはずが、日程変更で中日になってしまったMakerによるMakerのためのダンスパーティー、AkiParty{.markup–anchor .markup–figure-anchor}後の一枚。中央の女性Anbyは機材確保の責任者で、台風で機材が遅れて憔悴してフラフラするほど走り回っていた。それでもパーティー後にこの笑顔でいるのを見て涙がこぼれた。(提供:Anby Wen)

僕は、ニコニコ技術部で深センのMakerエコシステムを見学しに行く、ニコ技深セン観察会{.markup–anchor .markup–p-anchor}というイベントを主催している。過去の参加者、社会人研究者の湯村翼{.markup–anchor .markup–p-anchor}氏が、深センの街をこう表現していた。

海外に出ると改めて日本のことがわかるものですが、深センは街全体が「ルールを犯してでも儲かることをやる」「儲かるところにはリソースをつっこむ」「無駄なことはやらない」というスタートアップっぽさに溢れてる感じがしました。そういうところを見学してきたからというのもあるのでしょうが。そしてあらためて日本を振り返ってみると、「競争原理が作用しない」「動きが遅い」「非合理なことを人力でがんばる」という、国全体にいわゆる日本企業っぽさが溢れてるなと思いました。

今回の台風とMaker Faire Shenzhenにみる深センの人たちの対応を見ると、この表現がしっくりくる気がする。多くの混乱は起こったし、結果として不快になった人もものすごくいると思う。でも、結果として得られたプラスのほうが、バタバタして失ったマイナスよりはるかに多いと思うのだ。

深センの運営チーム、Chaihuo Maker Spaceは、その手腕を評価されて、中国の他の地域のMaker Faireの運営を頼まれている。12月3~4日は、四川省の成都(Chengdu)で行われる Chengdu Mini Maker Faire{.markup–anchor .markup–p-anchor}の運営を、彼らがサポートする。僕も何組かの日本人出展者とともに成都に行くので、今から楽しみである。申し込みはまだ募集している{.markup–anchor .markup–p-anchor}ので、みなさんと成都で会えるのをお待ちしている。

SeeedのデザイナーでMaker Faire ShenzhenのクルーでもあるKawi
が描いたドローイング。みんなにとって忘れられないMaker
Faireになった。

告知

今回の記事の中心になっているSeeedや深センの街がどういう会社や文化なのかについては、メイカーズのエコシステム{.markup–anchor .markup–p-anchor}という書籍にまとまっています。

By TAKASU Masakazu/高須正和{.p-author .h-card} on March 21, 2025.

Canonical link Exported from Medium on February 6, 2026.