2016/12/27 08:00
2016/12/27 08:00
HWTrekが深センのサプライチェーンをスタートアップに紹介するツアー。前回紹介したインキュベーション/試作から、今回はアイデアを実際に量産/製品化するうえで関わってくる製造業者を紹介する。大量生産のためには金型が必要になることはよく知られているが、プロトタイプと製品の間には検査や認証、箱詰めや検品/発送といった多くのサプライチェーンが必要になる。深センにはそのサプライチェーンが至近距離にすべてそろっている。
HWTrekのAsia Innovation Tour
HWTrekは年に2回、自分たちの製造業者ネットワークをスタートアップに紹介する、Asia Innovation Tour{.markup–anchor .markup–p-anchor}を行っている。2016年は深セン+京都+大阪で行っており、世界各国から20チームのスタートアップ、30人近くが深センに現地集合した。僕はMaker Faire深センの運営をしていたり、ハードウェア製造を取り巻くメイカーズのエコシステム{.markup–anchor .markup–p-anchor}という著書を書いたりしたことでHWTrekと縁があり、いつも見ているDIYに近いところより大規模な工場も見てみたくて、ツアーに参加した。

訪問先全リストは以下だ。同じ会社でも複数の工場を回ることも多く、連日8時台の集合から21時頃の解散までびっしりのスケジュール。この表を見てわかるとおり、試しに何個か作ってみるのに向いたCNC切削加工や小ロットPCB製造/組み立てから、大量生産に向いた金型を使う射出成形、製品として売るのに必要な検査や箱詰めまで、プロトタイプからプロダクトまでのサプライチェーンがすべて含まれていて、さらに資金調達やインキュベーションまで網羅している。
**1日目
**SkyPrototype{.markup–anchor
.markup–p-anchor}CNC切削加工会社
ChinaPCBOne{.markup–anchor
.markup–p-anchor}PCB基板製造、PCB組立アッセンブリ
EMTECH{.markup–anchor
.markup–p-anchor}電波法などの検査や認証
Shenzhen valley ventures{.markup–anchor
.markup–p-anchor}インキュベータ+Makerスペース
**2日目
**Invox/Sun On{.markup–anchor
.markup–p-anchor}射出成形
teamGiantバッテリー
Ryder EMS(設計/組み立て)
**3日目
**Stephen Gould{.markup–anchor
.markup–p-anchor}パッケージやマニュアル印刷/箱詰め
ミートアップ 参加ベンチャー20社が、協力会社や投資家に向けてプレゼン
「量産」の代名詞:射出成型のInvox/Sun On
金属の金型を用いてプラスチックの外装を大量に作る射出成型は大量生産の代名詞だ。金型は資産になるぐらい高価で貴重なもの、という認識はfabcrossの読者の多くが持っているだろう。東莞市のSun On Groupはその射出成型の工場だ。1997年に創業、現在は1000人の従業員を数え、4500万ドルを売り上げている。月に150~200プロジェクトの金型作成と出力を行い、うち30%は海外企業がクライアントだ。

Sun On Groupの会社紹介
射出成型で難しいのは、一度作ってしまうと修正が利かないことだ。Sun On Groupは製造工程すべてを熟知したエンジニアを用意することと、金型を起こす前のプロトタイピングを繰り返すことによる提案力を売りにしている。たとえばウォーターディスペンサの射出成型を請け負ったときは、大きなものが出力できる3Dプリンタを使ってプロトタイプを出力し、「この形できちんと使用できて、水が流れるか」までを検証する。その3D CADデータはクライアントと共有され、郵便で試作物を送ることももちろんできる。「何に使う、どういう要求仕様のどういうもの」という最初のやり取りのときに試作費まで含めた見積もりが提示され、途中のやりとりは最終の出力代に含まれる。

上の写真の携帯電話の外装、黒い部分は射出成型のプラスチックでできている。いくつかの部品をねじ止めするのだが、プラスチックにネジ山を切るのは強度の面で不安になる。Sun Onは、ネジ山が切ってある金属製のナットをはめ込む構造を提案し、強度・コスト・製造しやすさどの面からも「うまくいく」ようにした。これは内側なので質感や色が異なることも問題にならない。Sun Onでは射出成型だけでなく、アルミの鋳造やプレスを含めたあらゆるモールディングのラインがある。
2つの異なる素材を組み合わせる射出成型。
アルミ素材の鋳造。
塗装工程。射出成型後の塗装や磨きなども行う。


「1回の注文は、まず一晩のライン稼働で終わる。お客さんを待たせることはほとんどない」とのことだ。外装のCADデータが持ち込まれてから、どういう素材でどう出力するかのすりあわせが一番時間のかかるところで、だいたい1カ月半ほどで一つのプロジェクトが終わるとのこと。Sun Onの工場には小さな組み立てラインもあり、他から基板と電子回路パーツを持ち込んで、ここで完成品にするといった仕事を請け負うこともあるそうだ。さまざまな工場のノウハウが蓄積されている深センらしい業態だと感じる。
あらゆる検査をスピーディーにEMTEK
店に並ぶような商品とスタートアップが作るプロトタイプの違いは、安全性まで含めた品質だ。量販店に並ぶには、各国ごとの認証機関で認証を取ることを含めた、安全性の保障が必要になる。EMTEKは総合的な検査サービスを提供している。
EMTEKの紹介ビデオ。会社の歴史が語られる。
2000年に創業、現在は検査だけで年間2460万ドルの売り上げがあり、毎月5~6種類は新しい製品を手掛けている。有名どころではタカラトミーの玩具はここで検査していて、前の業者に比べて15%のコスト削減になったようだ。ほか、スマートフォンとつなげて使うロボットおもちゃSpheroの新モデルBB-8もここで検査したなど、世界中に19のサポートオフィスがある一大企業である。



EMTEKではFCC、CE、技適を一つの工場で取れるが、もっとも力を入れているのはコンサルティングで、製品と予算によって最適なプランを考える。スマホのように肌に密着し、さまざまな無線機器を積んでいるものは要求されるテストも多岐にわたり、あるアメリカのスマホ開発事例だと、検査のプロセスだけで6万ドルかかったという。どういう検査をするかはEMTEKのノウハウで、さまざまな検査をすればするほどコストはかさむが、後で問題が発見されて製品リコールになるリスクは下がる。どういう製品で、どういうユーザが使うかまで踏み込んで検査プランを提案するのもEMTEKの価値のひとつだ。
テストプランをつくり、テストを終了させるまでの期間は、平均で3~4週間。テスト中にプロダクトを壊す前提のものもあるので、3~4つぐらいサンプルがあればそのぐらいの期間で終わるが、1つしかないとより時間がかかるようだ。
ゼロからバッテリーを作れるteamGiant、印刷/梱包のStephen Gould
深センには製造の最終段階を請け負う梱包サービス会社も、バッテリーそのものをゼロから作る会社も、製造業に必要なあらゆるサービスがアクセス可能な範囲にそろっている。
深センのバッテリーメーカーteamGiantは、原料を加工してバッテリーセルそのものを作れる会社だ。スマートフォンなど、一般的な電子機器で使われる500回程度の充電に耐えられるバッテリーのほか、電気自動車などで使われる2000回以上の充電に耐えられる高寿命バッテリーも製造している。
工場はほぼオートメーション化されていて、見学は可能だが内部の撮影はできない。オートメーションのモニタリングシステムも、自社用にカスタマイズして使っている。多くのドクターやマスターを雇用することにより生み出す、基本的なバッテリーセルの性能の高さと、完成したバッテリーを全品チャージして48時間放置して安全を検査する品質が同社の強みだ。テスト時には2000回の充電サイクルを自社内で行うし、完成品のバッテリーに貼られているバーコードには、製造日やロットだけでなく、材料をどこから購入したかなどの情報も含まれていて、不具合があったときにさらに品質を上げられるように工夫している。既存のバッテリーセルを使ってラベルなどを貼るだけなら数百個の小ロットから、容量・電圧・サイズなどを調整して完全にカスタムのバッテリーを作る場合は5000mAの容量だと仮定すると、1万5000個ぐらいから開発できる。電気自動車用など容量がもっと大きければ個数は少なく、アクションカメラ用のように容量が少なければ個数が多くなる。



最後に訪問したのが、アメリカ資本のStephen Gouldで、印刷工場をコアに、箱詰めと配送を手がけるサービス企業だ。こちらも工場の入り口に、飛行機に乗る前のようなホールボディカウンターがあり、工場になにも持ち込んだり持ち出したりできない。ここはGoProやドローンのParrot、またPanasonic等の日本企業ほか、深センで製造している多くのナショナルクライアントを引き受けている。
「なんでもやる」大きさとクオリティをアピールするStephen Gould。
紙のマニュアルの印刷/製本、化粧箱の印刷、箱作り、箱詰め、まとめて出荷用のダンボールに入れて配送するまで、すべてをStephen Gouldでは引き受けていて、もちろんマニュアルだけ印刷して送り届けることや、展示会などのために少数のものを作ることもやっている。

巨大な印刷工場は東莞市、顧客から製品を預かって梱包/発送する工場は深センと香港の国境地帯にある保税区にあり、たとえばタイなどで作った製品をここで梱包することになっても、中国に持ち込む税金がかからない。深セン/香港は東南アジアに近く、その地の利をうまく使っている感じだ。
未来の深センを考える
今回の3日間は、ここ30年で世界中から集積した膨大な製造業の蓄積を見るツアーだった。深センでは試作から出荷までのすべてのサービスを声の届く場所で受けることができる。訪ねたどの業者も英語で会話できて融通が利き、「まだ世にない、初めての作品」を製品化することに意欲を持っているようだった。単体の業者ならともかく、その集積は深センにしかないものだ。また、HWTrekは紹介してくれないだろうが、自力で探せばもっと安い業者もたくさん見つかるだろう。そのスケーラブルさも集積が生んだものだと思う。
集積によりクオリティは上がり、コストは下がる。深セン地域の工場運営コストは年々上がっているが、ここしばらくは集積が進むメリットのほうが勝っている状態と思われている。個々の業者で見ると、厦門(アモイ)やマレーシアなどに移転を考えているところも多い。深センはそれらのハブになり得る位置でもある。
また、実際は工場の多くはもう「深セン市」でなく、隣接する東莞市などに移っていて、深セン市の中心部は金融街やサービスなど、より付加価値の高い産業の街になっている。東莞であれば深センと同じ事ができるだろうが、厦門、さらに海外に工場を移転した際に、同じクオリティが出せるかどうかは、また別のチャレンジングな目標である。日本企業はそうした経験を多く持っているが、中国企業は今からそれを体験する。
とはいえ、未来はよりグローバル化する。より都市化し、より集積のメリットが出てくるようになる。役割は変わるだろうが、しばらくスタートアップにとって「とりあえず深センに行こう」という場所ではありつづけると思われる。
HWTrek{.markup–anchor .markup–p-anchor}は世界からスタートアップや、スタートアップをサポートしたいスペシャリストや製造業者の情報を集めている。興味を持った人はぜひ。
告知
今回の記事の中心になっている深センのエコシステム、Makersとの関わりについては、メイカーズのエコシステム{.markup–anchor .markup–p-anchor}という書籍にまとまっています。
By TAKASU Masakazu/高須正和{.p-author .h-card} on March 21, 2025.
Canonical link Exported from Medium on February 6, 2026.