2016/12/26 08:00


2016/12/26 08:00

台湾で創業したHWTrekは、中国語がネイティブでしゃべれて西欧のビジネスルールにも合わせられるという特性を生かして、世界のスタートアップと主に深センの製造業者をつなぐビジネスをしている。同社は製造業ネットワークをスタートアップに紹介するツアーを年に2回開催している。ツアーの様子と、サプライチェーンのうち試作や小ロット段階での製造業者を紹介する。

HWTrekのCEO Lucas
Wang。スタートアップと製造業者を結ぶ。

スタートアップのその先へHWTrek

HWTrek{.markup–anchor .markup–p-anchor}は台湾に本拠を置くMakersの支援企業で、以下の3つをつなぐネットワークを作り、マッチングすることをビジネスにしている。

  • [スタートアップ:アイデアや製品の種はあるが、まだ市場に製品を届けられない]
  • [製造業者:スタートアップの製品を生産する能力がある]
  • [エキスパート:スタートアップの問題を解決できるスペシャリストだが、自分で製品を作るわけではない] スタートアップといっても起業したばかりというより、ある程度の資金調達に成功して「いよいよきちんと大量生産して販売して利益を出さなければ」というぐらいの段階を対象にしている。かつてこの連載で、クラウドファンディングだとまだ同人誌みたいな段階{.markup–anchor .markup–p-anchor}、というテーマを扱ったが、その次の段階だ。HWTrekはそういう「アイデアと資金はあるが自分たちだけでは生産ができない」というスタートアップに対して、彼らの課題を解決できるエキスパート(コンサルタントやフリーランスエンジニア、設計者など)と製造業者をマッチングするほか、独自のプロジェクト管理ツールを提供するなど、「きちんとした製品」を作るためのサポートを行う。その際に製造業者から払われる営業費がHWTrekの活動資金になっていて、すでに多くのマッチングをしている。

ここで作れないものはない 深センのサプライチェーン

今回、彼らがサプライチェーンをスタートアップに案内するツアーに参加し、深センが世界の工場と呼ばれている様子を目の当たりにした。3日間で7つのさまざま工程の工場を見たが、以下の点が共通している。

  • [どの製造業者も世界一流レベルの設計、生産、問題解決能力を有している]
  • [融通が利いてレスポンスが早い]
  • [工場入り口でのホールボディカウンターによる持ち物チェックなど、機密保持についても一流レベル]
  • [契約書も英語で結ぶことができる]
  • [おそらく価格帯は、深センでは高い方だが、無駄なところにコストをかけたり、ブランド名で実質の伴わない高い価格を付けているという感じはない]
  • [現在の取引先には、日本や欧米の有名企業を含む、名だたるメーカーが並んでいる] 早い/安いことは深センではある程度あたりまえなので、クオリティや納期等の面で信頼できること、スタートアップのあいまいな注文に対してフレキシブルに対応できることが特徴だと感じた。今回のレポートでは「プロトタイプから製品化まで」の、インキュベータと切削加工会社を紹介する。

プロトタイプから製品化へShenzhen Valley Ventures

スタートアップは「世界のどこにもないアイデア」を製品化する。つまり量産会社から見ると「世界のどこにもない製品を作る」ことなので、どれだけ経験がある量産会社から見てもチャレンジングな話だ。実際に名だたるスタートアップが手掛けた多くの製品が量産段階で失敗しているのは、fabcrossのイベント{.markup–anchor .markup–p-anchor}でも触れたとおりだ。量産のプロがサポートしてくれるのは、スタートアップにとってありがたい。

ツアー初日の最後に、深センのインキュベータShenzhen Valley Ventures{.markup–anchor .markup–p-anchor}が運営するMakerスペースを訪問した。Shenzhen Valley Venturesは、FOXCONNみたいな超大手の製造企業であるZOWEE{.markup–anchor .markup–p-anchor}が運営しているインキュベータで、今回の参加者のようなスタートアップをサポートして成長させることをビジネスにしている。深センの他、シリコンバレーにもオフィスがあって、中国国内の会社にアメリカのリソースを紹介して成長させる、ちょうどHAX(サンフランシスコ発で深センにラボがある)の逆のようなビジネスモデルといえる。

もちろん、HAXが中国の会社にも投資しているように、Shenzhen Valley Venturesもアメリカほか世界のスタートアップに投資していて、アメリカと中国の比率はちょうど半々だそうだ。6カ月ぐらいのスパンでスタートアップをインキュベートしていて、2週間前にオープンしたばかりのこのラボを、すでに10のスタートアップが利用している。

できあがったばかりのMakerスペース。コワーキングスペースの他、本格的なプロトタイプ開発環境のほか、スポーツジムなども備えている。

高機能なCNCマシン。4軸や5軸のCNC、旋盤、3Dプリントなど、巨大なスペースに多くの工作機械がそろう。

Shenzhen Valley
Venturesのプロトタイピングスペースには、小規模な生産ラインまで用意されている。

多くのサポートエンジニアも常駐していて、開発の相談や検証も行える。

コワーキングスペース


Shenzhen Valley Venturesの説明。ホビーというより、スタートアップのためのMakerスペースを志向している。

できたばかりのこのMakerスペースには、スタートアップに欠けている量産のための設計や検査などのアドバイスができるエンジニアが常駐し、プレゼン動画にあるとおり「趣味ではなく、実際にビジネスにしようとするMakersのための場所」を提供している。プロ向けということだと日本ではDMM.make AKIBAが近いが、深センらしく小規模な生産ラインまでMakerスペースの中に備える徹底ぶりだ。

1個から数千個までCNC切削加工会社 SkyPrototype

SkyPrototype{.markup–anchor .markup–p-anchor}は切削加工の会社だ。中国語で試作というときは、「試しに作ってみる」というより、切削加工や3Dプリンタなどで「一つずつ作る」ということを指すことが多い。大量生産でよく使われる射出成型は最初に大金を使って「金型」を作り、そこにプラスチックを流し込んで外装を作る。たくさん作るほど安くなるが、初期費用が必要で、いったん金型を作ると修正はききづらく、「10個だけ作って展示会に出品してみる」などの用途には向かない。

3Dプリンタや切削加工は一つずつ加工する。1個でも1000個でも一つ当たりのコストはあまり変わらず、初期投資がかからない。最終的に大量生産して量販店に並ぶとしても、展示会やクラウドファンディングで必要になるぐらいであれば切削加工を利用し、間違いのない段階にまで何度かフィードバックを集めてから、初期投資のかかる金型を起こすのはいい選択だ。

どこの工場でも、たいていは最初に会社紹介ビデオを見ることになる。ビデオは英語で、説明するスタッフの英語もパーフェクト。今回訪れたような製造業者は、どこも英語で契約を結ぶことができる。

SkyPrototypeは、1個から数千個までをキャッチフレーズに少ロット加工を行い、多くのエンジニアが相談に乗ってくれる。こちらから外装のCADデータと用途、必要な数などを伝えたら、一緒に材質、加工方法、仕上げ方法などを考えてくれる。そのコンサルティングサービスは製造の付帯業務なので無料で、コミュニケーションもだいたい英語で大丈夫。工場には、そのためにさまざまな加工ができる機械や職人がそろっていて、やりとりも「まずプロトタイプを送る」ところから始まるそうだ。

もちろん試作だけでなく、コストが多少上がってもCNCでないと出せない精度や材質が求められる生産品、たとえば自動車のギアボックスの完成品などもSkyPrototypeは手掛けている。まず、小ロット生産の代表的なマシン、さまざまなCNCが大量にそろっている。4軸、5軸といった、内部をえぐるなどの複雑な加工ができるマシン、大きな部品が作れる大型のマシンなど、役割の違う大量のCNCが並ぶ。

CNC、コンピュータ数値制御の加工マシン。アルミやプラスチック、木などを切削して望み通りの形にする。

削るドリル刃先を自動で取り換え、微細な加工ができるタイプのCNC。

役割の違うさまざまなCNCマシンが並ぶ

もちろんプラスチックの加工もできるので、アルミ削り出しの部品とプラスチックの部品を組み合わせて納品といったことも行っている。そうしたコンサルティングのために多くの設計エンジニアを備えている。

車のボンネット周りや医療用機器の筐体など、大型の部品で、そのまま完成品として使われるものまで受注している。

また、小ロットをコアにしつつ、もう少し多量の依頼にも、スケーラブルに対応するようにしている。たとえば、シリコンゴムやプラスチック、アルミなどで型を作って樹脂を成形するレジンキャストも提供しているし、CNCよりもさらに少ない一品物を作るための旋盤やボール盤のエンジニアも提供している。

一品物を作るための旋盤。

レジンキャストの型

一つ一つサンドペーパーで仕上げをする。

訪問時、ポリッシュ部署は大忙しだった。中国の工場ではスマホを見ながら作業をするような風景をよく見るが、この工場ではそうした状況は見られない。

塗装ブース

一番微細なメタルシート加工や塗装などを行った加工サンプル。一つ1588ドルかかる。

訪問後、HWTrekの訪問記念写真

これまでの写真を見て分かる通り、工作機械は多いものの、職人技プラス人数でフレキシブルに対応できるのがSkyPrototypeほか深セン企業の強さでもある。多くの社員は18歳から働き始めていて、工場の平均年齢は25歳。これまでの深センは、中国全土から働き手が集中する場所だったが、今では中国で一番土地も給料も高い場所でもある。SkyPrototypeでは、次の一手として厦門(アモイ)への移転を考えている。厦門ではそれほど労働者の質は変わらないが、30%ほど工場の運営コストが下がる見込みだそうだ。

何でもできるスケーラブルな深センのパワー

今回紹介したのは、8カ所訪問したうちのわずか2カ所である。それでも、資金調達からクラウドファンディングで数百個のものを作るところまでは完結してしまう能力がある。そして深センではこうした数個(開発しながらプロトタイプ)→数十個(展示会など)→数百個(クラウドファンディング)→数万個(量販店)までのスケーリングを短期間にしやすい場所である。

これまでの動画を見て分かるとおり、どこの人たちも英語でコミュニケーションできるし、ここにあるリソースは欧米で探すのが難しい。世界から深センにハードウェアの人たちが集まる理由だと思う。

次回は、その量産に向けた企業群を紹介する。

告知

今回の記事の中心になっている深センのサプライチェーンやメイカーエコシステムについては、メイカーズのエコシステム{.markup–anchor .markup–p-anchor}という書籍にまとまっています。

By TAKASU Masakazu/高須正和{.p-author .h-card} on March 21, 2025.

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