by 高須 正和 2016/02/23 08:00


by 高須 正和 2016/02/23 08:00

パーソナル・ファブリケーション


僕は海外のMakerを日本に紹介したり、日本のMakerが海外のMaker Faireにまとめて出展するような「ニコニコ技術部輸出プロジェクト」をやっている。勤務先であるチームラボの仕事でシンガポールに在住していて、東南アジアのMakerイベントに行くことも多い。この連載では、そういう海外のMakerの活動を、アジアを中心に取り上げていく。


2015年7月29日に明治大学中野キャンパスおいて、「深セン/シリコンバレーにみる、Maker Movementの『実際のところ』」という講演会があり、メインスピーカーとしてSeeed代表エリック・パンの講演「Grow the difference(違いを育てる)」が行われた。Seeedは数十個以下の小規模生産を個人から直接請け負うことで、これまでの大量生産されるはずだった「ハードウェア製品」を、同人誌のように小規模に生産して顔の見える範囲で頒布する活動をサポートしている。

講演では、オープンソースハードウェアの世界とMakerの文化が広がっていくことで、Indie Design、同人ハードウェアとでも言うべき世界が新しく生まれ、それは既存の製造業とは違うイノベーションの可能性を秘めていることについて熱いメッセージが送られた。

明治大学で講演するエリック・パン。

Maker for Makersオープンソースハードウェアを推進する深センのSeeed

中国・深センに本社を置くSeeed{.markup–anchor .markup–p-anchor}(旧名Seeed Studioだったが、2015年時点で200人を超える大きさの会社になり、Studioを外した)は、オープンソースハードウェアのキット販売や、Makerに小規模量産、プリント基板の製作サービスなどを提供している企業だ。アメリカが最も多い注文主で、まだ日本からの利用は多いとは言えないが、東京のMakerのクリエイティビティに注目し、Maker Faire Tokyoにはパートナーであるスイッチサイエンスと一緒に、毎年ブースを出している。

2015年の来日では、Maker Faire Tokyoのブース出展だけでなく、明治大学先端メディアサイエンス学科で特別講演も行った。講演のホストとなった宮下芳明教授は、「コンテンツ制作の民主化」をキーワードに、プログラムからモノまで、さまざまな開発手段が誰でも使えるようになっていることを、授業を通して教えている。

エリック・パンの講演は、「僕たちのビジネスはMakerのためのメーカー(Maker for Makers)です」という紹介から始まった。

MakerのためのメーカーをスローガンにするSeeed。アイデアだけでモノはゼロのDreamerから、10K+(1万個以上)モノを量産するハードウェア企業までサポートする。

この図は、Makerビジネスの全体像を表すものだ。下部、数字のゼロのヨコにあるDreamerから、10KとあるHardware Corporationsまでは、モノを作れる数を表している。何も作ったことはないが、アイデアはあるDreamerから、Maker人生は始まる。Seeedは、ハンダ付け無しでArduinoなどのマイコンキットを使った電子工作を楽しめるキットであるGroveなどを提供している(日本ではスイッチサイエンス{.markup–anchor .markup–p-anchor}が販売)。これはDreamerや、プロトタイプまで(図では0.1とされている)作れるMaker向けに提供されているものだ。PCB基板制作のFusionPCBは、自分で回路設計ができ、Engineering sampleまで作れるVeteran Makerから上に向けたサービス、ECサイトのBazaarでは、DreamerがGroveのような製品を買うことができるし、量産の段階までたどり着いたハードウェア企業が自社の製品をSeeedに売ってもらうこともできる。

Seeedはこのようにどの層のMakerもサポートしている。もうひとつ、この図の素晴らしいことは、どのMakerもDreamerから始まり、どのカテゴリに進んだMakerも、ずっとDreamを持ち続けている様子が示されていることだ。

Indie Design/同人ハードウェア

この講演で強調されたのが「Indie Design」だ。これまで、大きい組織から出てこなかったようなイノベーションが、趣味/情熱で駆動されるような人々の間から出てくることについて語っている。大きい組織が必要とする、「売れる見込み」や「すでにできあがっているマーケットシェア」とは別のところ、プロジェクトを進めているグループと、買い手/使い手の距離がきわめて近いコミュニティから生み出されるイノベーションだ。

例としてAppleとMakerBotが挙げられた。

  • [どちらも、コミュニティの中の小さいチームから始まった(AppleはHomebrew Computer Clubという自作PCマニアのハードコアなコミュニティから、MakerBotはNYCRegister{.markup–anchor .markup–li-anchor}というニューヨークのハッカースペースから生まれた)。]
  • [チームメンバーそれぞれの役割も、どこまでメンバーなのかもあいまいだった。]
  • [それまでプロだけが使えるものだった、コンピュータや3Dプリンタを個人が使えるようにした。] 上記の類似点が語られ、相違点として「Appleにはウォズニアックという天才がいて、ジョブズもテクノロジーにすごく詳しい人だったけど、MakerBotのチームは学校の先生とWeb開発者とソフト開発者のプロジェクトだった」として、一人もハードウェアのプロがいない状態で始まったプロジェクトであること、それぐらいAppleの黎明期(1976年頃)に比べると、現在はモノを作るための知識やサポートが得やすい環境になっていることについて触れた。

ここからエリックは、MakerBotだけでなく、今の時代に趣味ベースで駆動する小さい集団から注目のプロジェクトが続々と生まれてきていることを、Indie Designと定義する。

Indie
Designを成り立たせる要素。

そして、Indie Designが成り立っている要素として、以下のように整理した。

— — 作り手/供給側の変化

  • [Seeedのような会社によって部品の調達や製造がオンラインでできることで、手軽になったこと]

  • [テクノロジーの多くがオープンになっていて、簡単に調べられ、使えること]

  • [自分たちのプロジェクトを一緒に試してくれるMakerのコミュニティがあること]

  • [少量でも継ぎ足すように製造できるようになり、生産がフレキシブルになったこと]

  • [無料の開発ツールの普及] — — 買い手/需要側の変化

  • [人がもともと持っている、とても多様な要求]

  • [クラウドファンディングによる資本調達、リスクの分散]

  • [面白いものなら、宣伝費を使わずに広まるSNS] どれも、Maker Movementと呼ばれている大きな変化を構成する要素で、これにより「せいぜい数百個だが生産されていて、熱心なファンが使ってフィードバックを与えている」という、過去にはなかったものづくりができるようになってきている。そのときの最初の数百人のユーザーはすごく大事で、単なるカスタマーを超えた存在であり、「どういうものが良いものか」という需要まで、一緒になって考えるチェーンを作る存在だと、エリックは考えている。この考え方は同人誌などの「同人」という考え方に非常に近い。コミックマーケットに並ぶ同人誌は、同じ興味をもった人たちが交流するもので、少ない部数だが一見シェアが見当たらないような多様な要求に応えている。それは、日本から多様なマンガが生まれる基盤にもなっている。

Do It Yourself、個人が何かを作るDIYという行為は、どんどん「同人」の行為になりつつある。

どんどん同人の世界は広がっていくだろう

Seeedは、これまでIndie/同人が作れなかったものを作れるようにする活動を続けていく。fabcrossでも取り上げたオープンソースの携帯電話キットRePhone Kit{.markup–anchor .markup–p-anchor}はその好例だ(講演の時はまだ詳細が決まっておらず、違う名前で紹介されていた)。RePhone Kitは、12ドルぐらいで携帯が作れてしまう{.markup–anchor .markup–p-anchor}ほど、ツールのコモディティ化が進んでいる中国・深センのコピー品カルチャーを基に、SeeedがIoT向けに携帯電話をキット化したものだ。RePhone Kitを使うことで、どんなものにも簡単に電話機能/通信機能を付加することができる。「電話機能をもったIndie Design/同人ハードウェア」が続々登場するきっかけになりうるキットである。

「DIYはDIT(Do It Together)に変わっていく、深センは小規模量産を考えたときに最高の場所であるだけでなく、魅力あるMakerが楽しく暮らすMakerの第三のふるさと(生まれた場所、住んでいる場所に続くもの)にしていきたい。ぜひ、深センに来てください」と訴えて、エリックのスピーチは終わった。

講演の内容は動画で公開されている。

この講演会では、エリック・パンに加えて、秋田純一先生(金沢大学)が「Makerの道具としてのハードウェアと半導体」{.markup–anchor .markup–p-anchor}と題して、いまや半導体/LSIまでMakerが作れるようになっていることについての講演が行われた。僕も「メイカームーブメントで世界の何が変わっているのか?」{.markup–anchor .markup–p-anchor}というタイトルで、今のMaker Movementの経済的影響について紹介した。全体の質疑応答が会場使用時間いっぱいまで続くなど、作ることの意味が拡張してきていることについて、多くの人が関心をもっていることがうかがえた。講演の全動画はYouTubeで公開{.markup–anchor .markup–p-anchor}されているので、興味を持った人はいつでも見ることができる。

告知

2016年1月29日に、この記事で登場したエリック・パンとSeeedなど、アジアのMaker事情を、井内育生/きゅんくん/江渡浩一郎らとまとめた「メイカーズのエコシステム」{.markup–anchor .markup–p-anchor}(インプレスR&D刊)が出版されました。日本と深センで自らベンチャーを行う小笠原治/藤岡淳一も寄稿し、山形浩生さんがイノベーションが生まれる構造について解説しています。

By TAKASU Masakazu/高須正和{.p-author .h-card} on March 20, 2025.

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