2016/09/22 08:00
2016/09/22 08:00
「世界の工場」と呼ばれる中国の深センでは、アクションカメラや携帯電話が数百円程度で販売されている。経済大国となった中国はもう人件費の安さで勝負する国ではないにも関わらず、流行したガジェットの価格はどんどん下がるエコシステムが構築されている。今、そのエコシステムは世界のMakersに対して新たなムーブメントをもたらす可能性を示している。深センのエコシステムについてレポートする。
「世界の工場」から発明のラボに
「Makersのハリウッド」「ハードウェアの首都」「世界の工場」などと呼ばれる深センや近隣都市は、世界中の製造業が集まる場所だ。多くの製造業が集積され、その製造業を支えるエコシステムができている。
工業は一瞬のうちに、優れた少数の人間が発展させるものではなく、数十年のスパンでだんだんと伝播されていくものだ。最初は先進国からすべて運ばれ、指導されていたテクノロジーはだんだんと現地に根付いていき、そのエコシステムを背景に地元の起業家が生まれ、新製品や新発明なども生まれてきている。
働く技師を育てる工業高校、工作機械やベルトコンベアを修理できる地元の小企業、そういう企業を支える部品メーカーや部品市場、箱詰めの箱やマニュアルなどを印刷する印刷所、働くデザイナーを輩出する美術学校など……。
もともとは豊富な人口と安い給与を売りに外国人が経営する工場の場所だった深センは、1980年代後半からの30年近い発展の歴史を経て、その設計/製造能力を売りに世界中のハードウェアのアイデアを具現化する場所になった。
HAXというアメリカ発のハードウェアインキュベータは、アメリカ西海岸でアイデアと投資を集め、深センのラボで開発をする。ビジネスの中心地はシリコンバレーだが、ハードウェア開発のラボは深センのエコシステムを必要としている。

700円のアクションカメラが売られている深セン
筆者は年に数度、深センのエコシステムを見学に行くニコニコ技術部深セン観察会{.markup–anchor .markup–p-anchor}というイベントを行っている。現地集合現地解散、参加者は全員レポートをブログなどで公開することだけが条件のボランティアイベントである。
2016年8月15~17日に行われた今回の観察会では、深センの巨大な電気街の中にあるビル国際電子城で700円のアクションカメラが売られているのを見た。
国際電子城は粗悪品やコピー品含めてとにかく安い電子機器が売られている場所で、東南アジアや中東、アフリカといった開発途上国のバイヤーたちが買い付けに来る場所だ。

GoProで有名になったアクションカメラは、「広角で撮りっぱなしにできる(ずっとファインダーをのぞいてフレーミングする必要がない)、防水ケースなどでタフに扱えるビデオカメラ」というジャンルの新しい製品で、深センで多くの模倣品や改良品が生まれている。
「広角」と「タフ」という2つの要素がそれまでのビデオカメラとの違いだが、「観光中に自撮り棒につけて一定間隔で写真を撮り続ける」みたいな新しい用途も生み出した。その用途であれば液晶ディスプレイはあったほうがいい。
他にも、Wi-Fi機能をつけたり、色を変えたり、単純に二級品の部品を使って安く売り出すなど、そっくり似たようなアクションカメラ群の中に、数え切れないバリエーションが生まれている。


模倣品を生むエコシステム 公板(Gongban)公模(Gongmo)、そして中古部品
新しい製品を世の中に出す際には膨大な量の仕事が発生する。中身の設計/外装の設計/部品選び/外箱/マニュアル……そういった作業がプロジェクトをどんどん大きくし、失敗できないもの、スタートアップなどの小企業には手を出せないものにしていく。オンライン販売やクラウドファンディングなどで、生産数が1000個に満たない小ロット製品の売り方は生まれたのに、ハードウェアを製造するほうは対応できなかった。
製造業が集積している深センでは、**公板(Gongban)や公模(Gongmo)**と呼ばれる形で小ロット生産を支える中間成果物が流通している。公板はリファレンスボードのような形で、アクションカメラやタブレットのようにほぼ完成形で流通していることもあれば、カメラモジュールやGPSモジュール+基板のような形でキット的に流通していることもある。

**公模(Gongmo)**の"模"はモールド(金型)という意味で、ガジェットの外装や電池ボックスなどに使えるものがそのまま売られている。こういうものを組み合わせると、たとえば「アクションカメラにGPSモジュールを内蔵し、外装はそのまま」みたいな製品を、手に入れた部品の数だけ作ることができる。

今回のニコ技深セン観察会{.markup–anchor .markup–p-anchor}としていっしょに深センを旅した鈴木涼太氏は深センの電気街で売られていた粗悪な700円のアクションカメラを後日分解し、多くの部品がワンチップにまとまっていてコスト削減に貢献している様子をレポートした。(レポート:深センで買った700円アクションカムをバラしてみる{.markup–anchor .markup–p-anchor})

箱も外見も立派で、防水ケース含めた付属品も付いている(箱やマニュアルも公模同様に流通している)が、そもそも640×480のMotion JPGの映像しか出力しない低性能カメラで、一見するだけで映像のクオリティは違う。
こういうものを安かろう悪かろうの二級品とみることもできるが、「他の場所では見つけづらい幅広い製品が、実際に製造されて流通している」のは事実だ。上記のアクションカムも、ドライブレコーダみたいな用途なら使えるだろうし、「写りは悪くて良いが、とにかく安いものが欲しい」というニーズは他にも想像できる。
模造品が発明の種に
「豊富に流通しているモジュール単位の部品を背景に、欲しい性能のものを、欲しい数だけ、高速に作れる」というのはfabcrossの読者のようなMakerにとってもメリットになる。
この連載でも何度か取り上げているSeeedは、まさに深センの環境を世界のMakersに対して提供することをビジネスにしている企業だ。(大量生産でもDIYでもない、仲間内で頒布される「同人」ハードウェアが起こすイノベーション)

fabcrossでも紹介している同社のRePhone Kit{.markup–anchor .markup–p-anchor}は、10ドル程度で携帯電話が販売されている深センの汎用部品をもとに、世界のMakers向けに「自分の携帯が作れる、自分の作ったものにIoT機能を付加できる」キットとして、すべてのハードウェアをオープンソース化してインターフェース部分も付けて販売している。深センまで来なくても、こうしたキットを使うことで間接的に深センのエコシステムを利用することができる。
インターネットを通じて、情報もお金も設計データもやりとりできることで、深センのエコシステムに国境を超えてジョインすることが可能になった。それ以前は多くの大メーカーが量産工場として中国を使っていたが、今はHAXのように「プロトタイプ段階は深セン」というかかわりかたもあり、国をまたいだMakerたちのエコシステムはますます拡大し、生物が突然変異を生むように、世界を進化させつつある。
告知
今回の内容を拡大した、深センとシリコンバレー他、国境をまたいだMakersのエコシステムについては、「メイカーズのエコシステム」{.markup–anchor .markup–p-anchor}(インプレスR&D刊)という書籍にまとまっています。
By TAKASU Masakazu/高須正和{.p-author .h-card} on March 21, 2025.
Canonical link Exported from Medium on February 6, 2026.
